思考錯誤録

頭でっかちな人間の見た景色

【感想】静かな雨 宮下奈都

「あたしたちは自分の知っているものでしか世界をつくれないの。あたしのいる世界は、あたしが実際に体験したこと、自分で見たり聞いたりさわったりしたこと、考えたり感じたりしたこと、そこに少しばかりの想像力が加わったものでしかないんだから」


主人公はある女性を好きになる。ふとしたきっかけで少しずつふたりの距離が縮まった矢先、その女性は事故に遭う。そして、3ヶ月と3日の眠りから覚めた彼女には、その日の新しい記憶を一晩寝るたびにリセットされてしまうという後遺症が残ったのだった。

彼女の退院後、一緒に暮らすようになった主人公は、ふたりの暮らしが彼女のなかに積み重なっていかないことに苛立ちを覚える。

彼女の世界のなかで、ふたりの暮らしは体験したこととして残らない。だから彼女の世界と自分の世界の重なる部分も広がっていかない。さらに、特別な出来事ならまだ我慢できるのに、と主人公は思うのだ…。


イベントのような非日常を共有することと、日常を共有すること。

優劣をつけるものではないので、どちらだったからどうというものでもないが、その人と自分の世界のどこが重なっていたら幸せなのかが相手によってなんとなく違うような気もする。

そして、優劣をつけるものではないというものの、特別な出来事なら我慢できるのに、という主人公の気持ちもすごくわかるのだ。

誰かの世界と共有する記憶が、ふとした言葉のやりとりや、なんてことない日々の繰り返しであることの幸福感や満足感。なんとなく、自分の世界の真ん中に近いところと相手の世界が重なっているような気持ちになる。


いま、非日常を体験することはおろか日常生活をつつがなく送ることすら難しい世界になってしまっている。そして、物理的な距離が離れてしまったことによって、誰かと時間を共有することがとても難しくなった。

常に心のどこかにある落ち着かないような気持ちは、誰かの世界と自分の世界が重なっているという確かさを実感できないせいなのかもしれない。

家族と、友人と、そして大切に思う誰かと、もしくは小説、音楽、映画などの作り手とだって構わないだろう。文字でも声でも画像でもなんでもいい、世界が重なり合う場所を少しずつ取り戻していくことで、この大変なときを乗り越えられるような気がする。


「静かな雨(文春文庫『静かな雨』収録)」 宮下奈都 2019年


静かな雨 (文春文庫)

静かな雨 (文春文庫)

【感想】ごろごろ、神戸。 平民金子

「神戸、どうなるんかね。良くなってほしいね、と思う。」

年末年始に休めなかった分の休暇を取り、神戸に帰った。

書店の店頭に平積みされた「ごろごろ、神戸。」。今回の帰省では、この本がいつも手元にあった。


大阪出身で色々な場所を転々として暮らし、またそういう生き方を選んできた筆者が、子どもの誕生を機に移り住んだのが神戸だった。


筆者は、地元民とよそ者両方の目線で神戸の街を見ている。

失われていく商店街や市場、古き良き時代の空気を残した隠れ憩いスポットを生活の背景において暮らし、その風景を愛し、時に讃えつつも、積み重ねられた歴史を知らない筆者自身は単にその結果だけを借り物として消費しているだけである、という具合に。


しかしそれでもこの本のあちこちに、この神戸に根を下ろし生きてきた人々、あるいは動物たちの姿がイキイキと伝えられていて、そこには決して上辺だけではない愛情をしっかりと感じ取ることができた。


また、この本は18歳まで神戸で暮らしていた自分にも知らない神戸の横顔を教えてくれた。この本と一緒に歩き、たくさんの「初めて」とともに神戸での新しい記憶がつくられていった。

面白いところだな、と思った商店街が、実は近所に住んでいた子ども時代の母が出入りしていた場所だったり、実家から徒歩4時間で登って行ける山から見た景色がとても美しかったり、行ってみた市場が3月には閉じられてしまうと後から知ったり。

新しい神戸と出会うたびに、まだまだこんなに知らない場所があったのかという嬉しさも感じたし、暮らしていた頃に気付けなかったことへの悔しさも感じた。


その一方で、祖父の馴染みの串カツ屋、大伯母といつも行く喫茶店、その帰りに必ず寄って帰るパン屋、いつもの場所を少し誇らしく思ったしもっと大事にしたいと思った。


いつが「最後の…」になるかは、誰にも分からないから。


今度神戸に帰ったら、須磨浦山上遊園でのんびり読書しようと思っている。

「ごろごろ、神戸。」 平民金子 2019年


ごろごろ、神戸。

ごろごろ、神戸。

  • 作者:平民金子
  • 出版社/メーカー: ぴあ
  • 発売日: 2019/12/10
  • メディア: 単行本

2020年冬クールドラマ、序盤のひとこと感想

◯×は視聴の有無で、横の数字は今ここまで見ているという話数です。評価値ではないです。

◯月曜

フジ月9
絶対零度 ×
過去作見てないので…


テレ東ドラマBiz
病院の治し方 未
未見。パラビでそのうちみようと思っているが、初回2時間マジでやめてほしい。クール始めの延長は、長ければ長いほど見る気失せる。
余談だが、今期の日テレドラマは初回延長ゼロでとても助かった。


BSテレ東深夜
今夜はコの字で ◯4
コの字型カウンターの居酒屋で楽しく飲むお話。
頭からっぽで見てられる。


テレ東深夜
100文字アイデアをドラマにした! ◯2
若手女優が何人か交代で主演していくようなので、どんな人がいるかなって感じで見ている。


日テレシンドラ
やめるときもすこやかなるときも ◯2
この枠のジャニーズドラマって味のあるトンチキ作品が多いんだけども、今回は窪美澄の小説が原作なので、ちゃんとしていて普通に面白い。


◯火曜

フジ火9 関テレ制作
10の秘密 ◯3
そこそこの人が出ていてそこそこ引きもあるけど、なんか、パッとしない印象。どっちでもいいけどとりあえず見とこっか、とだらだら見続けている。


TBS火曜ドラマ
恋はつづくよどこまでも ◯1→×
出ている人が割と好きなんだけど、やっぱりラブコメは自分にはきつかった。向いてないので早々リタイヤ。


TBSドラマイズムMBS制作
SEDAI WARS ◯5
世代ごとに代表者を出して戦い、勝ち残った人が大統領になるSEDAI WARS。戦い自体はあっさりしていて、リアル世界での各キャラの話が中心。
設定がおもしろいので見始めて、世代ごとのキャラもなんとなくその世代の人っぽいキャラになっているのがおもしろくて流し見している。


フジ深夜
乃木坂シネマズ ◯1→×
乃木坂の人の顔と名前一致させられるかなと思って見てみたんだけど、よくわからん設定の話が続いて、1話めはギリついていけたが2話めは無理だった。一話完結らしいからまた主演によっては見るかも。


◯水曜

日テレ水曜ドラマ
知らなくていいコト ◯4
大石静脚本なので期待値は高かった。
出生の謎を追うのがメインかと思ったら、意外と週刊誌パートの比率高め。着地点そこでええんかいと突っ込みたくなるところもあるけど、テンポいいし役者もいいのでまあいっかってなっちゃう。
ネット記事でも言われてるけど、柄本佑が男前。去年のなつぞら、いだてん、牡丹灯籠、スローな武士とNHKの出演作で見たものはどれもよかった印象。


テレ東ドラマホリック
僕はどこから ◯5
他人の文を媒介に、思考をトレースできちゃう主人公。
能力を使った1話完結なのかと思ったらそうでもないようで、サスペンスな流れになってきた。
中島裕翔は苦手な部類なんだけど、作品が良くて見ちゃうパターンが、たまにある。スーツはダメで1話でやめたけど、シーズン2やるなら見ようかな…
間宮祥太郎は最近めっちゃ出てるな。そしてどの役もいい感じにこなしちゃうのがすごい。


◯木曜

テレ朝木曜ドラマ
ケイジとケンジ ◯3
例のあの人が出ているドラマ。演技が大げさで正直ヘタだと思っている。この人も苦手。
それなりの人がそろっててちゃんとしたドラマなんだけど、めちゃ面白いかというとそこまででもなくて…。
個人的な印象として、火曜9時と並んで、もったいないドラマが多い枠。


フジ木曜劇場
アライブ ◯4
主演が地味めの松下奈緒、脚本の倉光泰子の前作が竹内結子主演の「QUEEN(19年冬)」なのであまり期待してなかったんだけども、掘り出し物だった。
複数の患者のエピソードと主人公自身のエピソードが毎回丁寧に、しかもちゃんと絡み合っている。


日テレプラチナイト読売テレビ制作
ランチ合コン探偵 ◯4
チープなドラマが多めの枠なんで、期待してないけどまあ1話くらい見るかなと見てみたら意外とハマってしまった。クールな山本美月とキャンキャンうるさいトリンドル玲奈のコンビがいい感じ。


テレ東深夜
ゆるキャン ◯1→×
なんとなく1話見て、2話め見逃してそのままリタイヤ。


フジ深夜
ペンション・恋は桃色 ◯3
ペンションを経営しているリリーフランキー伊藤沙莉の親子と、めんどくさい系斎藤工がだらだらいろんな話をして、たまにお客さんと絡むゆるゆるドラマ。


「このミス」大賞ドラマ関テレ制作
カエル男 ◯4
ニッポンノワールからうってかわって、まともな刑事の工藤阿須加。鬱展開グロ展開が続くので結構きついけど、結末が気になっている。


関テレ制作
エキストラ ◯3
ドラマのエキストラにスポットをあてた1話完結ドラマ。最後はほっこりドタバタ系。


◯金曜

金曜20時のドラマ
奥多摩駐在刑事2 ◯2
2サスのノリで、奥多摩の事件を駐在さんが解決。
寺島進主演なんで、それだけで十分って感じで見ている。
年1の単発ドラマ5回、18年秋にシーズン1。
その度に事件が起こっている奥多摩、治安悪すぎでは…?


TBS金曜ドラマ
病室で念仏を唱えないでください ◯3
タイトルの割にまじめな内容。医師として患者の健康を救い、坊主として患者の心を救う。
例のあの人のお相手はこちらに。2話目であっさり消滅していたが。
伊藤英明と、対立するムロツヨシがどちらもキャラが立ってておもしろい。
キチッと仕事をこなすタイプの中谷美紀が救命チームの安定感を生んでいる。


NHK金曜ドラマ
ハムラアキラ ◯1
割と評価高いんだけど、初回でハマれなかった。2回め次第では、やめてもいいかなと思っている。


テレ朝金曜ナイトドラマ
女子高生の無駄遣い ×
出演者、内容、どちらにも興味がないので…。


テレ東ドラマ24
コタキ兄弟 ◯4
待ちに待ってた野木亜紀子
兄弟の掛け合いが楽しくて、芳根京子はかわいくて。毎週の楽しみになっている。
4話目が短編映画のようでとてもとても良かったので、ぜひ見てもらいたい。


テレ東深夜
絶メシロード ◯1
絶滅危惧メシを訪ねて金曜深夜の弾丸ドライブ。ゆるく見られる系。


◯土曜

NHK土曜ドラマ
心の傷 ◯2
これも丁寧なつくりのドラマ。震災の話なので、まじめに見ている。
柄本佑尾野真千子の組み合わせは、去年の牡丹灯籠に引き続き。初回の2人の映画館のエピソードが好き。


テレ土曜ドラマ
トップナイフ ◯4
天海祐希が天才脳外科医で全部解決!っていうわけではなく。それぞれがそれぞれに悩みとか課題を背負っていて、それを乗り越えながら医師としても成長して。その辺は某Xと方向が違うところ。こっちの方がすきかな。
4話の後半、患者のおじさん2人が昔のことを話すシーンがよかった。


フジ大人の土ドラ東海テレビ制作
パパがも一度恋をした ◯1
亡くなった奥さんが、おっさんになって帰ってきた。
本上まなみが塚地になって蘇るのだが、塚地がちゃんと本上まなみに見えてくる。かわいく見えてくる。すごい。
塚地のポテンシャルの高さよ…!


テレ朝土曜ナイトドラマ
アリバイ崩し承ります ◯1
特になんということもない1話完結ミステリー。
浜辺美波の顔を覚えるために観ます。


NHKよるドラ
伝説のお母さん 未
そこそこ話題になっているので、録画を観るのを楽しみにしている。今朝のフジテレビ批評のドラマ放談ではおすすめに票が入っていたので期待できるかな。


テレビ大阪深夜
大江戸スチーム ◯2
平賀源内が開発したスチーム甲冑で悪の集団シマヴァランと戦う、時代劇風味特撮ドラマ。袴田吉彦が悪のボス天草四郎で、芦名星が悪の手下のくのいちなので、そのあたりも楽しむポイント。


読売テレビ深夜
LINEの答え合わせ ◯1
合コン後のラインが既読スルーなのはどうしてでしょうね、という答え合わせ。全然納得いかなかったので、そういうのに向いてないんだなと思いました。


◯日曜

NHK大河
麒麟がくる ◯3
今の雰囲気のまま最後まで行くといいなーと思う。
いだてんとは違う方向性で面白い。


TBS日曜劇場
テセウスの船 ◯1
これもけっこう評判高いけど、いまいちハマれていない。いつもの日曜劇場みたいな1話の中でのカタルシスがそんなにない感じ。


日テレ日曜ドラマ読売テレビ制作
シロでもクロでもない世界でパンダは笑う ◯1→× 4
清野菜名横浜流星もアクションできる人らしいので、活かしてはいるんだろうけども、そもそもミスパンダとかミスターノーコンプライアンスとか、そのあたりについていけんかった。
1話目でやめて、4話目に谷村美月が出たからもう一回見てみたけど、やっぱり合わなかった。


BSプレミアム プレミアムドラマ
贋作男はつらいよ ◯4完
関西弁でリメイクする、現代版寅さん。シリーズ化しても面白いと思う。



27本継続中(1本完結)。
深夜ドラマに手を出すと、本数が恐ろしいことになるな…

「麒麟がくる」が来た。⑤斎藤利政vs反齋藤連合、加納口の戦い

⑤斎藤利政vs反齋藤連合、加納口の戦い

頼純は母の実家越前の朝倉へ、頼芸、頼次親子は尾張の織田の元へ追放され、崖っぷちの土岐家。

1544年に土岐、朝倉、織田、しれっと混ざる近江の六角の連合軍で美濃攻めを行う。

ここまではいいのだが、ここから先の展開には色々な説があるらしい。

1544年または1547年に加納口の戦いという大きな戦いがあり、どちらの年に起こったかで流れが変わる。

先に加納口の戦いを説明しておくと、これが先日麒麟本編の第2話で描かれた戦いで、稲葉山城下を織田信秀率いる織田軍が攻め込むが、返り討ちに遭い大敗を喫するというもの。
(市街戦でなかなか見応えがあるので、まだ見ていない方は土曜日の再放送をぜひ見てほしい!)

この戦いのことを伝えた書簡が残っており、そこで織田軍は残り数人まで減って逃げ帰ったと伝えられている。

その書状を出したのは斎藤家の家臣長井秀元。斎藤側の人間の言うことなのでまあ数人というのはかなり盛っていると思われる。

この長井さんが、小守護代の長井家と関係あるかはわからないが、長井秀元は脇役で「麒麟がくる」にもちゃんと登場していた。


◯加納口の戦い1544年説(大河ドラマじゃない方)
美濃攻めの中で加納口の戦いが起こるパターン。
美濃攻め→加納口の戦いで織田軍大敗→一時撤退。
頼純は大桑城に、頼芸は揖斐北方城(大桑城よりだいぶ西の山奥)へ。
1546年に斎藤と連合軍が和睦する。

利政の娘の帰蝶は、この時に頼純に嫁いだと考えられる。

ここでも枝分かれがあり、
頼芸が守護を降りて頼純に代わる説
結局守護は頼芸のまま変わらない説
がある。

そして、1547年に土岐頼純が死ぬ。

◯加納口の戦い1547年説(大河ドラマの方)
加納口の戦いがまだ起きないだけで、流れはほぼ一緒。
美濃攻め→結局うまくいかず撤退。
頼純は大桑城に、頼芸は揖斐北方城(大桑城よりだいぶ西の山奥)へ。
1546年に斎藤と連合軍が和睦する。
利政の娘の帰蝶は、この時に頼純に嫁いだと考えられる。

守護がどちらかの枝分かれも同様。

1547年、加納口の戦い。頼純が織田に通じての戦いか。
同じ年に頼純が死ぬ。


どちらの説でも頼純と帰蝶は結婚していて、最終的に守護は頼芸になる。

本編では次の第3話がここ(1547)から始まるということで、ようやく話がまとまる。

この先の見どころというか流れとしては、
帰蝶と信長の結婚、斎藤・織田の同盟(1548or49)
・頼芸を追放して完全に美濃を平定(1552)
・利政、出家して道三になる(1554)
・道三vs義龍、親子対決長良川の戦い(1556)
が挙げられる。詳しいことは敢えて調べず、ドラマを先に観てから調べることにしようと思う。

明智光秀はそもそも若い頃のことは史料にほぼ残っていないようなので、本格的な活躍はしばらく後になるだろう。

桶狭間は1560、長篠は1575、本能寺は1582なのでまだまだ先は長い。

というわけで美濃予習編終わりー!
やるとしたら、次は足利将軍家周りをやると思います。

「麒麟がくる」が来た。④「長井規秀」から「斎藤利政」へ、そして暗躍

④「長井規秀」から「斎藤利政」へ、そして暗躍

1530〜33年にかけて、長井長弘を殺して長井規秀(のりひで)となったのちの斎藤道三。じわじわと勢力を伸ばしている。
その一方、終わらない土岐氏の争い。

美濃国は、土岐頼武と頼芸(よりのり)の終わらない兄弟喧嘩に振り回されている。

というのが前回のあらすじ。

1530年ごろでの美濃の体制を整理しておこう。

守護は土岐頼武。しかし、現在越前に追放中。リベンジの機会を伺う。
その弟が頼芸。兄を追いやり土岐氏の当主だが、まだ守護にはなっていない。

守護代は斎藤利茂。影が薄い。

守護代だった長井長弘がいなくなり、実質小守護代は長井規秀。

この体制がしばらく続くが、また事態が動き出す。

1535年、朝倉の援助で頼武と子どもの頼純(よりずみ。本編第2話で毒殺されてた人)が、稲葉山城の北の山奥、大桑(おおが)城に入りめでたく美濃に復帰。

さらにこの年は土岐兄弟の父にして兄弟喧嘩の火種を作った土岐政房の17回忌にあたり、当主の頼芸は法事を行なって自分の正当性の主張した。

これに大桑城の親子がキレて戦闘に。朝倉や六角も巻き込んで頼芸を攻めた。
このあたりで徐々に頼純に代替わりしていると思われる。

が、頼武親子が形勢逆転するには至らず、次の年には幕府から頼芸が正式に美濃守護に任じられる。

さらに頼芸は六角氏から嫁をもらって六角氏と和睦し、戦乱はだいたいおさまる。

1539年には頼純と和議が成立し、これにて土岐氏の内輪もめは一旦落ち着く。

それでも平和にならない美濃国
なぜなら、美濃には長井規秀がいるから。

1538年、先代の守護代だった斎藤利良(としなが)が亡くなり、規秀は斎藤の名を継いで斎藤利政(としまさ)となる。ついに斎藤家に入り込むことに成功したのだ!

ただし、守護代は斎藤利茂(とししげ)で、系図を見て貰えばわかるのだが、彼は利良とは別系統のため、守護代になったわけではないようだ。

そして、土岐家が落ち着いたところでいよいよ動き出す。

1541年、利政は頼武・頼芸兄弟のさらに下の弟である土岐頼満を殺す(どうやってかはわからん)
これをきっかけに土岐氏と険悪になっていく。

さらに1542年から43年にかけて、頼純のいる大桑城を攻め、頼純を再び朝倉の越前に追いやる。

とどめに同じ年、守護である頼芸と子の頼次を親子まとめて尾張に追放。やりたい放題である。
尾張といえば織田家。ここから織田家も絡んでくるよ。

影の薄い守護代斎藤利茂も、いつのまにか居なくなっていた(詳細不明)

長井を絶やし、斎藤になり、土岐を追放。
このとき、ついに斎藤利政は美濃の実質的な頂点に立つ。

黙っていないのは追放された土岐一族。頼芸と頼純、その背後の越前・朝倉と尾張・織田が手を組み、反撃に出る。

美濃の覇権争いも最終局面に入る。

いい感じのところで次回へ続く!
(「麒麟がくる」本編(1547年〜)にほぼ追いついた!)

※このあと起こる戦いの時期にはふたつの説があり、一方は大河ドラマで採用されたもの、もう一方はそれより早く本編と矛盾が生じるので、一旦仕切り直します

「麒麟がくる」が来た。③油売りの子が「長井規秀」になるまで

③油売りの子が「長井規秀」になるまで

長い間、斎藤道三は一代で油売りから美濃国を乗っ取った下克上と言われていて、司馬遼太郎の「国盗り物語」でもそのように描かれた(読んだことはない)。

しかし、最近の説では、これは親子二代で行われたのではないかということになっていて、美濃で家臣としての地位を築くまでを父、仕上げに斎藤家を乗っ取るのを子、がやったとされている。

まずは父の話。

父は、京都の寺で僧侶をしていたが、ある時知り合いについて美濃に移り還俗、松波庄五郎と名乗った。

庄五郎は油問屋の娘と結婚、油売りとなるが、油を注ぐパフォーマンスなどの実演販売で有名となり、なんと才覚がもったいないからと武士にスカウトされる。

そして、武芸の訓練を積み達人となり、僧侶時代のつてで口利きをしてもらい、小守護代の長井長弘の元に仕え、名前を西村勘九郎とする。

こうして一介の油売りが、美濃国の覇権争いに加わったのだ!

さて、長井長弘勘九郎土岐氏に紹介したところ、頼芸は勘九郎をいたく気に入った。
これで勘九郎は頼芸の側につくこととなる。
ここがひとつ、美濃国の分岐点だったかもしれない。

勘九郎は長井長弘や頼芸を後ろ盾に得ることができ、同じ長井の姓をもらって
長井新左衛門尉(しんざえもんじょう)
と更に改名する。

そして、前回の最後のところに話がつながる。


1519年父の政房が死んだことで頼武が美濃に復帰。追いやられた頼芸と、そこについた長井長弘、さらにその家臣新左衛門尉は、まとめて没落する。

その後、しばらく頼武が治めて美濃国は束の間の安定をみる。

しかし黙っていない頼芸サイド。
(ここらへんは添付の汚い手描き地図も参考に…)

1525年、長井長弘が頼芸を奉じて、頼武や守護代斎藤利茂を襲撃。斎藤氏の稲葉山城や守護の館、福光館を占拠する。

さらに、琵琶湖のほとりで北は朝倉、南は六角に挟まれる浅井亮政が山を越えて美濃へ侵攻、頼武軍と、それを助ける朝倉も巻き込んで関ケ原近くで戦ったりもした。

この戦乱は1527年ごろまでつづき、1530年には頼武が再び朝倉の元に追放される。

これでめでたく頼芸が実権を取り返す。
そして、この戦いの中で新左衛門尉は、頼武を革手(川手)城で襲い頼芸復活に貢献したといわれる。

定かではないがこのあたりで親子代替わりして、後の斎藤道三が父に替わって動いていると思われる。

頼芸の覚えがめでたくなると、邪魔になるのは長井長弘

1530年または1533年に、いちゃもんをつけて長井長弘を殺害。長井新九郎規秀を名乗る。

史料では、1533年に長井規秀の名が初めて現れたそうだ。また、この年には長弘の子、景弘と規秀が連名で史料に現れるが、翌年には規秀単独になるため、この間に景弘もなんらかの形で亡くなっているとされる。

こうして長井家は規秀のものとなった。


斎藤になるまでもうしばらく波乱が起こるので、まだ次回に続きます。

「麒麟がくる」が来た。②美濃国の支配体制(斎藤道三以前)

美濃国の支配体制(斎藤道三以前)

応仁の乱から、斎藤道三が入り込んでくるまでのあらすじ。かなり入り組んでややこしい話になってます。

前述の通り、守護は土岐氏守護代は斎藤氏、小守護代(ここだけ訂正)は初め石丸氏→後に長井氏。

応仁の乱(1467年〜)の時点で、守護は土岐成頼守護代斎藤利藤、後見人は妙椿。

京都にいる成頼が西軍についたため、美濃にいる斎藤氏も西軍になり、美濃国内で東軍についた国人(地域の支配者)と内乱になるが、斎藤氏がこれを制して勢力を伸ばす。


◯美濃文明の乱
応仁の乱のあと、斎藤妙椿の死後(1480年ごろ)に利藤と利国で後継争い。

土岐成頼と石丸利光が利国側について、利国の勝ち。利藤は近江→京都へと追放される。

翌年、石丸利光は斎藤姓を与えられ小守護代になる。

その後、利藤が幕府に助けてもらって美濃守護代に復帰するが、実権は利国がもったままになる。
いつのまにか、石丸利光は利藤に接近。


◯船田合戦
1494年、今度は土岐氏で後継争い。成頼は元頼に継がせたいが、嫡男は政房。船田合戦という戦になる。

土岐成頼・元頼、斎藤利藤、石丸利光
vs
土岐政房斎藤利国

政房、利国の勝利。
土岐元頼は自害、石丸利光も親子で自害、斎藤利藤は隠居ののち1498年に、土岐成頼は1497年にそれぞれなくなる。

この辺で、いつのまにか長井氏が小守護代になっているっぽい。


◯斎藤氏没落
しかし、1497年に近江の六角討伐の帰りに一揆にあい斎藤利国、利親が親子で戦死。利親の子がまだ幼いので利親の弟ふたり(又四郎と彦四郎)が順に後を継ぐが、1512年に土岐政房に追放される。
利親の子、利良は土岐氏の元にいる。


◯もう一回土岐氏の後継争い
1517年、政房の後継をめぐり土岐氏はまたもめる。

土岐頼武、斎藤利良
vs
土岐政房・頼芸、長井長弘

一度頼武が勝つが、翌年頼芸が押し戻す。

1519年政房が亡くなると、朝倉の力を借りて頼武が守護になる。

ということは、頼芸と長井長弘失脚。

◯まとめ
この段階で、守護に土岐頼武、守護代は斎藤利良から代わって斎藤利茂、小守護代は長井長弘
このあと、斎藤道三が絡んでくる。