思考錯誤録

頭でっかちな人間の見た景色

【自分語り】仕事をやめよう、と決めたときの話。

ちょうど1年前、鳥取砂丘に行った。

前の晩カラオケに泊まり、5時に店から放り出されたのでとりあえず鳥取駅へ向かった。
もちろん8月だからすでに日は出ている。だんだん明るくなっていくなか、川沿いの道を通って鳥取駅まで歩いた。

鳥取駅で荷物を預け、砂丘を地図で探す。鳥取砂丘といってもかなり広く、バス路線が通っているのは砂丘の中央部の辺りらしい。そして、そもそも朝6時前にバスが走っているわけもなく、タクシーを拾うか歩いて向かうかの二択となる。

鳥取砂丘の中央部まで、歩いて1時間を軽く超える距離があった。それでも、やはり自分の足で歩くことにした。その夏までの数ヶ月、休日ごとに東京中を歩き回ってある程度自信がついていた。そしてなにより、徒歩の、自分の力で進んでいる感覚が好きだった。自分が足を止めさえしなければ必ずたどり着けるから。

どうせ歩いて行くなら砂丘の一番端から全部見てやろう、そう思いバス停のある中央ではなく、西の端を目指して歩いた。空は快晴。真夏の朝7時には、もう十分なくらいに気温が上がっている。途中休憩を挟みながら、初めての道を進む。だんだん大通りから外れ、砂丘方面への案内標識もいつのまにかなくなっていた。

車道だけの道になり、バス路線の終点の住宅街の脇を抜け、川沿いへ出る。河口が見えた。そして、汗だくになりながら、ようやく砂丘のスタート地点に到着。

しかし、そこに見えたのは、ほとんどがツタのような短い草に覆われた原っぱだった。思っていた景色と違って拍子抜けしてしまった。砂丘という言葉から想像したものとかけ離れていた。



ここまでの苦労はなんだったんだ、とがっかりしつつも、真ん中まで行けば砂だけになるだろう、と考えてとにかく進むことにした。

草が足に絡む砂地を歩く。朝8時、こんな砂丘の外れを歩く人は他にいなかった。たまに、斜面や丘になっているところを駆け上り駆け下りる。そんなことを繰り返し、何度目かの斜面を登ったところ、急に草がなくなり、視界がひらけた。

!!!

雲ひとつない青空と、一面の青い海、そして、誰の足跡も付いていない真っ白な砂丘

最高だった。こんな景色を独り占めできるなんて。
これが、ひとり旅の醍醐味だと思った。この感動を味わいたくて、ひとり旅をするのだ。

真ん中の、みんなが見に行くところまで行ったら、もっと素晴らしい景色を見られるのかも、そう思ってさらに進んだ。

だんだん人が増えてきた。すると、当然もうひとつ増えるものがある。

そう、足跡だ。

人の集まる真ん中に近づくにつれて足跡が増え、まっさらだった砂地は、みるみるうちにでこぼこ道に変わっていった。いちばんの見どころと言われる馬の背に至っては、もう平らなところを探す方が難しかった。

これが、わざわざ時間をかけてみんなが見に来る景色なのか?そう思うと、なんとも残念な気持ちになった。ちょっとだけそこを外れたら、もっとステキな景色に出会えるのに。

この旅に出るまで、仕事を辞めるかどうか、何ヶ月も悩んでいたのだが、この時に、決心がついた。

「みんなと同じ足跡だらけの道じゃなくて、まだ誰の足跡もついていない道を歩いていきたい!」

そうして、仕事を辞めることにした。

鳥取砂丘に行ってなかったら、もしかしたら、今まだ小学校の先生をしていたかもしれない。

でも、辞めたからこそ得られたものがたくさんあった。
新しい出会いもたくさんあったし、今までお世話になった人とも違った関わり方ができるようになった。

20代最後の夏も、もうすぐ折り返し地点。

目の前には、足跡のない景色が広がっている。